目隠しのメンエスで、なぜか抗えなくなった夜
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あらすじ:仕事帰りに
シチュエーション:#メンエス・#目隠し・#焦らし・#ドS・#年上お姉さん・#M男・#言葉責め
約4,113字・読了目安 約8分/登場人物は全員成人・同意のうえのフィクションです。

金曜の夜、九時を少し過ぎていた。
佐伯は駅の裏通りにある雑居ビルの三階で、受付の小さなベルを鳴らした。三十四歳。営業の数字に追われる一週間がようやく終わって、肩も首も、自分のものではないみたいに固まっていた。
出てきたのは、黒いミニ丈のワンピースの女だった。黒いストッキングに包まれた脚が、薄暗い間接照明の中でつやを帯びている。年は自分より少し上だろうか。唇には深い赤。爪にも同じ色が乗っていた。
「本日担当します、玲です」
声が低い。耳の奥に、ゆっくり沈んでくる声だった。
メニューの説明を受けながら、佐伯は一枚のカードに目を留めた。〈目隠しオプション――視覚を遮ることで、触覚に集中していただけます〉。
「……これ、どういう感じなんですか」
「見えないぶん、全部がわたしの手と声だけになります」玲は小さく首をかしげた。「苦手なら、途中でいつでも外します。『ストップ』って言ってくれれば、すぐに」
ストップ。その言葉を彼女は、確かめるように二度言った。
「お願いします」
自分の声が、思ったより早く出た。
個室は狭く、甘い香りがした。白檀と、何か柔らかい花。紙ショーツに着替えてうつ伏せになると、玲が枕元にしゃがむ気配がした。
「目、閉じて」
黒いシルクの布が、まぶたの上にそっと置かれる。後頭部で結ばれるとき、彼女の指先が髪の生え際をかすめた。それだけで、首の後ろがぞくりとした。
「きつくない?」
「……大丈夫です」
「じゃあ、合図をもう一回決めておこうか」耳元で、息が混ざる。「やめてほしいときは『ストップ』。少しゆるめてほしいときは、手をぎゅって握って。――いい?」
「はい」
「いい子」
その一言に、なぜか胸の奥が小さく跳ねた。三十四にもなって、いい子、と言われて。
オイルは人肌に温められていた。
玲の手のひらが、肩甲骨のあいだに置かれる。置かれただけで、まだ動かない。重さと温度だけが、背中にじわりと染みてくる。
見えない。それがこんなに心許ないとは思わなかった。次にどこに触れられるのかがわからない。わからないから、全身の皮膚がいっせいに耳になる。
手が、ゆっくりと腰に向かって滑りはじめた。指の腹ではなく、手のひら全体で、時間をかけて。背骨の両脇を押し流すように降りていき、腰のくぼみで止まる。
「ここ、ずいぶん固いね」
「……座りっぱなしなので」
「ふうん」
くすっと笑う気配。次の瞬間、指先が脇腹に回り込んだ。くすぐるのではない。爪の先で、皮膚の表面だけを、ほんのかすかに引っかくように。
佐伯の背中がびくりと跳ねた。
「あれ。今の、マッサージだよ?」
からかうような声が、真上から降ってくる。見下ろされている。見えないのに、それがはっきりわかった。
時間の感覚が、だんだん溶けていった。
玲の手は、決して急がなかった。太ももの裏を膝からゆっくり上ってきて、際どいところの手前で、必ず引き返す。もう一度。また引き返す。紙ショーツの縁に、指先が一瞬だけ触れて、離れる。
そのたびに、佐伯の呼吸が浅くなった。
「息、止めてる」
「……すみません」
「謝らなくていいよ」耳たぶのすぐそばで囁かれる。「ちゃんと吐いて。ほら、わたしに合わせて。吸って――吐いて」
言われるまま、呼吸を合わせる。玲の吐息のリズムに、自分の胸が従っていく。
おかしい、と佐伯は思った。
手足は自由だ。縛られているわけでも、押さえつけられているわけでもない。布一枚なんて、指一本で外せる。合図だって決めてある。いつでもやめられる。
なのに、指一本動かせない。
いや――動かしたくないのだ。
この手に逆らったら、今のこの、溶けていく感じが終わってしまう。それが怖かった。彼女に全部預けてしまえば、もう何も考えなくていい。数字も、上司の顔も、明日の予定も。考える役目を、この人が全部持っていってくれる。
「……抵抗、しないんだね」
玲が、面白がるように言った。
「してほしかった?」
「……いえ」
「正直」
指先が、背骨を一本ずつ数えるように、首まで上がってきた。
「仰向けになろうか」
体を返すとき、玲の手が肩を支えてくれた。目隠しの下で、天井の気配さえわからない。ただ、彼女の香りが近い。
オイルを足す音がした。手のひらをこすり合わせる、湿った小さな音。それだけで、喉が鳴った。
鎖骨に、両手が置かれる。そこから胸の上を、円を描くように、ゆっくり、ゆっくり。けれど、中心には触れない。一番敏感なところの周りを、爪の先が、輪郭だけなぞって回る。
近づいて、離れる。また近づいて――離れる。
「ねえ」上から、低い声が落ちてくる。「さっきから、ここばっかり待ってるでしょ」
答えられなかった。
「顔に書いてある。目、隠してるのに、全部見えてるよ」
かり、と。
ほんの一瞬だけ、爪の先が中心をかすめた。
佐伯の口から、自分でも聞いたことのない声が漏れた。慌てて唇を噛む。
「我慢しなくていいのに」
玲は笑って、また輪郭だけをなぞる作業に戻った。さっきの一瞬が、何度も何度も頭の中で繰り返される。次はいつ来るのか。来ないのか。わからない。わからないことが、たまらなかった。
ベッドの縁を握っていた手から、いつのまにか力が抜けていた。
「大丈夫? ちゃんと気持ちいい?」
ふいに、施術の手が止まった。さっきまでの意地悪な声とは違う、静かな確認の声だった。
「……はい。続けてください」
「ほんとに? いやなら『ストップ』だよ」
「いやじゃ、ないです」
言いながら、顔が熱くなった。続けてください、と自分からお願いしている。その事実が、恥ずかしくて、それ以上に甘かった。
「そっか」
玲の声が、また少し低くなる。
「じゃあ、ここからはわたしの好きにするね」
玲は、彼の右手を取った。
ベッドの縁から指を一本ずつはがし、自分の手のひらの上に乗せる。オイルで濡れた指と指が、ゆっくり絡む。
「さっき決めたよね。ゆるめてほしいときは、この手をぎゅって握るって」
「……はい」
「じゃあ、握らないあいだは、ずっと続けていいってことだ」
意地悪な理屈だった。けれど、反論する気は起きなかった。絡められた指が、彼女の指の温度にゆっくり馴染んでいく。握れば終わる。握らなければ、続く。その選択を、自分の手に預けられている。
それなのに、指先には少しも力が入らなかった。
玲は空いているほうの手で、耳の後ろから首筋をたどった。耳たぶの裏を、爪の先がひと撫でする。そこから鎖骨のくぼみまで、皮膚の一番薄いところだけを選ぶように降りていく。
「耳、弱いんだ」
「……わかりません」
「わかるよ。今、肩がすくんだもん」
唇が、耳のすぐ横まで来る。触れてはいない。触れていないのに、吐息の湿り気だけが、耳の縁をゆっくり濡らしていく。
「目が見えないとね、人って、声のするほうに全部の神経を寄せちゃうの」囁きが、鼓膜の奥でほどける。「だから今、佐伯さんの世界には、わたしの声しかない」
本当にそうだった。エアコンの音も、隣の部屋の気配も、いつのまにか遠のいている。暗闇の真ん中に、彼女の声だけが灯っていた。
「ねえ、名前呼んで」
「……玲、さん」
「もう一回」
「玲さん」
「ふふ。上手」
褒められるたびに、背骨のあたりがじんと痺れる。こんな、甘やかすためだけの言葉で。わかっているのに、体が勝手に喜んでしまう。そのことが恥ずかしくて、恥ずかしいことが、また気持ちよかった。
絡めた指は、まだ一度も握られていなかった。
そこから先、佐伯は時間の数え方を忘れた。
太ももの内側を、指の背が上っていく。紙一枚隔てたところで止まり、そこに手のひらの熱だけを置いていく。触れているのか、いないのか。その境目を、彼女は正確に知っていた。
近づかれるたびに腰が浮きそうになり、そのたびに、耳元で「だめ」と囁かれる。それだけで、体はぴたりと動きを止めた。命令されたわけではない。ただ、そう言われたら、従ってしまう。
どうしてだろう、と遠くで思う。
どうしてこの人の「だめ」には、こんなに逆らえないんだろう。
答えはたぶん、もう知っていた。逆らわないほうが、ずっと気持ちいいからだ。自分で決めるのをやめて、この手に全部預ける。そうすると、体の奥のほうで固く結ばれていた何かが、ひとつずつほどけていく。
「いい顔」
玲の指が、目隠しの縁をそっとなぞった。
「最初に入ってきたとき、すごく疲れた顔してた。今は全然違う」
「……そう、ですか」
「うん。とろとろ」
くすくす笑う吐息が、頬にかかる。
「もうちょっと、いじめてもいい?」
佐伯は、ゆっくりうなずいた。
その夜、玲は最後まで、彼の一番欲しいところに素直には触れなかった。
焦らして、ほどいて、また焦らして。限界の手前まで連れていっては、そっと引き戻す。そのたびに、佐伯は小さく息を漏らし、ベッドの上で溶けた。
終わりを告げたのは、キッチンタイマーみたいな、小さな電子音だった。
「はい、お時間です」
さっきまでの声が嘘みたいに、玲は事務的に言った。後頭部の結び目がほどかれ、シルクがすべり落ちる。
まぶしい、と思った。間接照明しかないのに。
見上げると、玲がベッドの脇に立って、こちらを見下ろしていた。赤い唇が、少しだけ笑っている。
「どうだった?」
言葉が出てこなかった。代わりに、正直な感想が口からこぼれた。
「……なんで、何もできなかったんだろう」
玲は、ほんの少し目を細めた。
「できなかったんじゃなくて、しなかったんだよ」
オイルのついた指先で、彼の額の汗をぬぐう。
「全部わたしに預けたほうが、気持ちいいって、体が先に知ってたの。――また来たら、もっとちゃんと教えてあげる」
帰りの電車の窓に、自分の顔が映っていた。
疲れは、きれいに消えていた。代わりに、胸の奥に小さな熱が残っている。目を閉じると、まだあの声が聞こえる気がした。
吸って。吐いて。――いい子。
スマートフォンを取り出して、予約のページを開く。来週の金曜、夜九時。担当者の欄に、迷わず彼女の名前を選んだ。
目隠しオプションのチェックボックスを、今度はためらわずに押した。
(この作品はフィクションです。登場人物は全員成人で、作中の行為はすべて同意のうえで行われています。実在の店舗・人物・団体とは関係ありません。)
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よくある質問
- Q. この小説はどんな人に向いていますか?
- A. 目隠しやメンエスのシチュエーションで、年上の女性にじっくり焦らされる展開が好きなM男向けです。激しい責めより、触れるか触れないかの距離で心がほどけていく過程を楽しみたい人に合います。
- Q. 登場人物は成人ですか?同意はありますか?
- A. 登場人物は全員成人(主人公は三十代の会社員、セラピストは年上の女性)です。目隠しも施術の進め方も、作中で主人公が言葉で同意し、いつでも止められる合図を決めたうえでのフィクションです。実在の店舗・人物とは関係ありません。
- Q. 似たシチュエーションの音声作品はありますか?
- A. あります。メンエスで焦らされる系なら、ページ下の「このシチュエーションが好きな人へ」で紹介している作品ページや、乳首責めメンエスのハブで形式・長さ・焦らしの強さを比べられます。
